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東京高等裁判所 平成7年(ラ)1176号 決定 1996年3月28日

抗告人 株式会社山栄ビル

右代理者代表取締役 山下英美

右代理人弁護士 中野公夫

藤本健子

相手方(債権者) 日本エイチ・エル・興産株式会社

右代表者代表取締役 眞尾猛

主文

本件抗告を却下する

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙≪省略≫記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

本件抗告の理由は、要するに、抗告人は本件建物の所有者であるところ、相手方(債権者)の有する抵当権は、真実の所有者でないアド・ビル商建設株式会社(債務者)から設定を受けたものであるから、無効であり、したがって相手方が抵当権の物上代位により債務者の第三債務者(賃借人)らに対する賃料債権を差し押さえることは許されないというに帰する。しかしながら、仮に債務者が本件建物の所有権を有していなかったとしても、債務者(賃貸人)が第三債務者(賃借人)らとの間に締結した賃貸借契約は有効であり、第三債務者らが債務者に対して賃料を支払ったとしても、賃料債務が消滅するだけで、真実の所有者が有する不法占有による損害賠償請求権は何ら影響を受けない(賃料債権と損害賠償請求権とは全く別個のものであるから、いかなる意味でも前者についての弁済によって後者が消滅することはあり得ない。)。換言すれば、仮に抗告人が本件建物の真実の所有者であったとしても、当然に第三債務者らに対する賃貸人たる地位に立つことはないのであるから、抗告人が賃料債権を有することはなく、これについて損害を被ることはあり得ない。その意味で、抗告人は、仮に本件建物の所有者であったとしても、第三債務者らの債務者に対する賃料の支払については、何らの法律上の利害関係はないものというべきであり、相手方が抵当権の物上代位によりこれを差し押さえたとしても、この差押命令に対して執行抗告を申し立てる利益はないといわなければならない。もっとも、第三債務者らが賃料を支払うと、将来抗告人が真実の所有者として第三債務者らに賃料相当損害金の支払を請求したとき、その支払を拒否されるおそれがあり得るが、しかし、この支払を拒否されるおそれは本件差押命令を取り消したとしても除去されるものではなく、したがって、これをもって本件差押命令に対して執行抗告を申し立てる利益とすることはできない。

これを要するに、抗告人は、原命令によって何ら法律上の利益を害されることはないのであるから、本件執行抗告を申し立てる利益がない。

三  よって、本件抗告は不適法であるから却下することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 佃浩一 西尾進)

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